2026.04.13

一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントは「持続的なまちづくり」を掲げ、渋谷駅前にてまちづくり活動を推進しています。その一環として、アーティストが挑戦できる環境をつくること、再開発中から公共空間を豊かにすること、「人の心を楽しませ、人が歩きたくなる街」を実現することを目指し、2023年度よりアーティスト公募企画「TYPELESS」を始動しました。
渋谷の街に息づく「アート」と「公共性」
―渋谷アートプロジェクト「TYPELESS」が目指す、芸術と社会課題解決の境界線
2026年2月25日、「TYPELESS Vol.3」が公開されました。一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント 事務局長 峰﨑大輔と企画制作パートナーを務めたEmbedded Blue Inc. 代表/プロデューサー 片岡奨が対談形式で、見えてきた課題や今後の展望について意見を交わした対談をお届けします。
公共の場における「表現」と「制約」のジレンマ
片岡: まず、今回の「TYPELESS」第3弾を振り返って、公共空間にアートを展示することの難しさを改めて感じました。制作予定の作品が通行車両から見て信号機などに誤認されるなどの可能性があり、安全性や公共空間においては配慮が必要でした。
峰﨑: アーティストの意向を100%反映したい一方で、公共の場には安全や規律という「制約」がどうしても存在しますね。
片岡: はい。作家さんご自身は「公共性とは何か」を深く理解してくださり、快く修正に応じてくれましたが、その魅力をどう維持しつつ、街のルールに適応させるか。この「公示の仕方」や「制約の伝え方」は大きな課題です。
峰﨑: 私は、公共アートに参加するアーティストには、むしろその「制約」を楽しめるくらいの覚悟や面白さを感じてくれたら嬉しいと思っています。「こうしちゃダメ」というルールは、公共空間の場合、主催者でも予測しきれないケースがあります。警察のチェックを通っても、通行人からクレームが入ればNGになることもある。それでも「自分がパブリックアートのガイドラインを作るんだ」というくらいの気概を示してくださる方と一緒に歩んでいきたいですね。


通行量も交通量も日本屈指を誇る渋谷駅前に掲出されるアート作品
チームに「見旗(ビジョン)」を立てる重要性
片岡: 運営面では、3年間の継続によって「ノウハウの蓄積」ができてきました。メンバーが入れ替わっても、外部のパートナーとして参画する当社は「外部ハードディスク」のように知識を保持しているため、安定した進行が可能になっているとも思います。これを今後どう発展させていくべきでしょうか。
峰﨑: 私はパートナーにノウハウが蓄積される形は、責任の所在が明確になるという点からも良いと思っています。必ずしも主催が全てを担う必要はない。ただ、進行において最も重要なのは、チーム全員で共有する「芯」や「見旗(ビジョン)」を如何に一つにできるかです。
片岡: 「見旗」ですか。
峰﨑: はい。例えば経営層が「やりたい」と言っているだけではダメで、現場のメンバーが自分事として動けないと、組織としてのモチベーションは続きません。ステークホルダー全員が「納得している、応援している」というレベルまで、プロジェクトの意義を浸透させる必要があります。

片岡: 渋谷の地元の方々や出向元の企業など、多くのステークホルダーに応援してもらうためには何が必要でしょうか。
峰﨑: 結論は「分かりやすさ」に尽きます。一目で伝わり、一言で説明できること。最近の成功例として「トイレマップ」があります。渋谷駅周辺のトイレ情報を可視化したものです。渋谷は商業施設が多く、公共のトイレが少ない。渋谷駅前周辺のトイレ位置の情報をGoogleマップベースで作ることで、多言語対応やアイコン化による直感的な理解が可能になりました。特定の施設だけでなく、エリア全体を網羅することで、外国人観光客の方々など多くの人の利便性を高めることができました。
片岡: 「TYPELESS」も、落書き防止という機能性と、テクノロジーを駆使した「分かりやすさ」をより発展させていきたいです。誰もが「これは汚しちゃいけない」と感じる、圧倒的な認知度とテクノロジーによる浸透。アートとしての高潔さを保ちつつ、ナッジ(行動心理学)的な課題解決に重心をおく試みもあってもいいかもしれません。
アーティストの「実生活」を豊かにできているか
片岡:「TYPELESS」の次のフェーズについてはどうお考えですか。
峰﨑: アーティストへの還元です。「認知が広がりました」で終わるのではなく、このプロジェクトに出たことで「作品が売れた」とか「別の仕事に繋がった」という実利が生まれるところまで伴走したい。
片岡: それは非常に重要な視点です。私たちも、アーティストが「この企画に出て本当に良かった」と心から思える状態を目指しています。


作品周辺には作家紹介のボードも設置されている。
「ゼロ(落書きなし)」を維持する覚悟と、新たな指標
片岡: 最後に、施策としての「効果測定」について伺いたいです。
峰﨑: 私は事業会社の人間なので、定量的な指標は重視します。ただし、落書き防止のゴールは「ゼロ」です。一度ゼロを達成すると、翌年以降のKPI設定は非常に難しくなる「悪魔の証明」でもあります。
片岡: 確かに、「増えていないこと」を証明し続けるのは大変です。
峰﨑: だからこそ、「見えない定量」を探すべきです。例えば、「この柱の前での待ち合わせ人数が増えた」とか。アートが街の目印(ランドマーク)になり、風景の一部として欠かせないものになっているか。
片岡:私たちとしてのこの街に作品がどう関与しているのか、という街の回遊性やUX(ユーザー体験)の変化を数値化して伝えていきたいと思っています。
峰﨑: 例えば、どんなにSNSでバズっても、落書きが増えてしまっては「芯」がブレていることになります。まずは「落書きゼロ」という第一義を外さず、その上で定量・定性の両面から社会へのインパクトを補完していく。そんな取り組みを継続していきたいです。

TYPELESS
一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント(所在地:東京都渋谷区、代表理事:坂井洋一郎)は、渋谷駅前の違法な落書き・ステッカー等の景観問題を解決すること、再開発中から公共空間を豊かにすること、アーティストが挑戦できる環境をつくることを目指し、渋谷駅前の公共空間を舞台にアーティスト公募プラットフォーム「TYPELESS」を実施してまいりました。 第3弾として、2025年10月に実施したアーティスト・キュレーターの一般公募により採択されたアーティスト4名の作品が、2026年2月25日に公開されました。また、作品掲出開始にあわせ、同日にリリースイベントを開催しました。
一般社団法人 渋谷エリアマネジメント 事務局長 峰﨑大輔

2008年に東急株式会社に中途入社。入社後、PASMO電子マネー事業、駅ナカWi-Fi事業、交通・屋外広告担当などの領域を担当。2019年に社内起業の制度を活用してふるさと納税事業を立ち上げた後に、2024年4月より渋谷エリアの開発戦略の策定や行政・他事業者との関係づくり、対外PRなどを行い、渋谷におけるスタートアップとの共創企画も担当。2025年12月、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント事務局長就任。
Embedded Blue Inc. 代表/プロデューサー 片岡奨

企業や行政とのアートプロジェクト企画開発などを中心とする事業を展開。企業とアート・アーティストの橋渡しとして、2023年より本企画の前進となるパブリックアートプロジェクトより企画制作を担い、TYPELESSにおいても企画運営として実務を担当。
■渋谷駅前エリアマネジメント
渋谷駅前エリアマネジメントは、駅前再開発が行われているエリアのまちの魅力を高める為、公共空間を含む活動エリア内の屋外広告物の掲出や工事中のにぎわい創出、駅周辺の将来像の情報発信やエリア一体イベントの実施など、公益的な取組みを実施しています。
活動内容の1つである「工事中の魅力付け」に関し、再開発工事中の駅周辺における賑わい創出を目的として仮囲いやまちの様々な場所を使い、公共空間を豊かにしながらアーティストが挑戦できる環境をつくり、まちの魅力向上を目指しています。
公式HP(団体概要) https://shibuyaplusfun.com/project/
公式instagram https://www.instagram.com/shibuya_plusfun/